日本耳鼻咽喉科医会 理事長 伊東 祐久

 第39 回臨床家フォーラム「中四国フォーラムin 倉敷」が盛会裡に行われたことが、つい先日のことのよう

に思い出されます。内容の充実した実り多いフォーラムでした。昨年は鹿児島で第40 回記念のフォーラム

が行われ、そして第41 回は再び中四国の山口県下関市で「中四国フォーラムin 下関2016」という形で開催さ

れることになりました。また昨年に引き続き今回も大学の耳鼻咽喉科学教授に講演をお願いできたことは大

変喜ばしく心より有り難く思っております。

 ご存じの通り、臨床家フォーラムは、会員、家族、職員が共に集い、会員相互の研鑚と親睦を図る事を目

的としております。昭和50 年に第1 回目が開催され、その後、一時中断はありましたが、多くの会員の努力

に支えられ、こうして41 回目を迎える事が出来ました。「継続は力なり」と言われますが、正にその通りで、

この臨床家フォーラムは日本耳鼻咽喉科医会の誇りであり、今後も42 回、43 回と続けて行くことが責務と

考えています。

 今回のフォーラム実行委員会は会長、実行委員長のご努力で、鳥取県、島根県、愛媛県、山口県、福岡県、

大分県の会員で構成され、これまでにない広がりをみせています。またプログラムを見ますと、分科会では

補聴器、黄砂やPM2 関連、頸部エコーなど、全体集会では小児難聴、内耳基礎研究、「死」など、興味深い

講演が組まれており、企画の素晴らしさに感服しております。一人でも多くの人に聞いて戴きたいと心から

願っています。

 今年のサブタイトル「草莽崛起(そうもうくっき)」を調べてみますと、草莽は「在野の志士」、崛起は「立ち

上がれ」の意味のようです。実行委員の皆様が全国の地域医療に励んでいる会員へ、「耳鼻科医よ、団結して、

高齢化社会に向かって耳鼻科の専門性を活かして地域医療により一層貢献しようではないか」と訴えている

と解釈しました。それに応えるためにも是非とも多くの会員が参加して、研鑽と親睦を深め、明日への診療

に役立てて戴ければと願っております。

 会場にあるシースルーエレベーターに乗り70 秒、143m という日本有数の高さを誇る海峡ゆめタワー

望室に到着します。そこからは、関門海峡、巌流島から響灘、対岸の九州まで、360 度の絶景を楽しめるよ

うです。また三方を海に開かれ広大な面積を誇る下関は「海の幸」、「山の幸」の宝庫とも言われています。講

演後の下関の観光と料理も併せて非堪能して戴ければと思います。

 最後にフォーラムの盛会を祈念してご挨拶と致します。_


フォーラム会長 鈴木 徹

第41回臨床家フォーラムは山口県下関市での開催です。各県持ち回りでの開催が望ましいのですが今回も中四国ブロックと本部とが共同で開催する形となりました。特筆すべきこととして地元下関市山水会の先生方や九州からも実行委員会にご参加くださったことで篤く御礼申し上げます。皆様方のご協力によって実り多いフォーラムになると確信しています。

講演については阿部実行委員長を中心に積極的に検討され、学会とはまた別の診療に即役立つ実践的な内容となっております。また全体集会では山下教授にご講演を快諾していただき感謝に堪えません。昨年の鹿児島フォーラムでは黒野教授のご講演を拝聴し画期的なことと感激ひとしおでありました。両教授のご高配に心より感謝申し上げます。

大会スローガンの「草莽崛起」は阿部実行委員長が提案されました。私は不勉強で内容をよく存じませんで、手許の諸橋大漢和(大修館)を久しぶりに繙いてみました。

「草莽」は「草むら、やぶ。転じて民間。在野。」だそうです。出典に「易経、周易上經、同人、九三」、「春秋左氏伝、昭公元年、十二年」があり、やはり手許の新釈漢文体系(明治書院)を開くといずれも「草むら」として使われています。大漢和で「草莽之臣」は「仕官しないで民間に在る者」として出典は「孟子、萬章章句下」とありやはり手許の新釈漢文大系・孟子を見ると萬章章句下に

「萬章曰く、敢えて問う、諸侯に見えざるは、何の義ぞや、と。孟子曰く、國に在るを市井の臣といい、野に在るを草莽の臣という。皆庶人を謂う。庶人は質を傳えて臣と為らざれば、敢えて諸侯に見えざるは、禮なり、と。」とあり、萬章が孟子に仕官しない理由を問う一節で「仕官しないで国都に居住する者を市井の臣といい、田舎に住む者を草莽の臣という、いずれも皆庶人、即ちまだ仕えない者のことである」と在野でも田舎に住む人を指すようです。

「崛起」について大漢和では「崛」は「1山がそばだつ、2獨立のさま」で、「崛起」は「急におこり立つ、そばだつ。聳え立つ。屈起」となっています。

日本思想体系「吉田松陰」(岩波)には、安政六年に捕らわれ二月九日獄中から佐世八十郎宛の書簡中「真忠孝に志あらば一度は亡命して草莽崛起を謀らねば行け不申候。」の頭注に「草莽崛起 浪人、民間人になって立ち上がる」とあります。その後の書簡にも「草莽崛起の人あらば」「草莽崛起の豪傑ありて」「草莽崛起の力を以て」「草莽崛起の論」「実に草莽の案なり・・往先崛起の人有か無かを考て見ねばならぬ」「何ぞ崛起人を他に求めんや」「義卿知義、非待時之人、草莽崛起、豈仮他人力哉」など松陰は獄中にあってなお熱血漢であったようです。

小生なりに草莽崛起とは「民間開業医にも傑出した人材がある」と解釈し、フォーラムで共に学び松陰のように情熱を持続して医療に携わってゆきましょうとの呼びかけであろうと考えております。

消費税増税が延期され社会保障費の財源確保はきわめて困難と思われます。医療費抑制策は更に強化されるでしょうし、新専門医制度はまだ未解決の問題が多く、耳鼻科開業医の将来は楽観できないと思われます。自らの医療圏でどのような耳鼻咽喉科診療が継続できるかを開拓する姿勢が求められることになるでしょう。フォーラムがそのお役に立てるよう願ってやみません。ご家族・職員の皆様も含め多数のご参加をお願い申し上げます。


実行委員長 阿部博章

 今回、下関市において第41回耳鼻咽喉科臨床家フォーラムを開催することになりました。下関市の海峡フォーラムに白羽の矢を立てたのは鈴木徹会長です。倉敷フォーラム終了後新幹線沿線で大都市ではない(公共施設の利用が可能)という条件で下関が選ばれました。倉敷では鈴木徹先生にほとんど全てのお仕事をやっていただきましたので今回は私がということで実行委員長を引き受けました。

 なぜ、臨床家フォーラムを開催するかですが、”かがみ”の128号の巻頭言にも書きましたが、サミュエル・マイルズが「自助論」の中で「天は自ら助くるものを助く」と述べています。この精神が肝要と思っています。日本国中の耳鼻咽喉科開業医が問題意識を持って毎日の診療にあたり、その中から現状の問題点やこれからの方向性に関するヒントを見つけ議論し内容に磨きをかけて行けば我々の将来を明るくし、かつ耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域において社会に貢献できるに違いありません。

 今回のフォーラムのスローガンは「草莽崛起」です。場所が下関であることから、まず最初にこの言葉が頭のなかに湧き上がってきました。特別な人ではなく、ごく普通の耳鼻咽喉科開業医が意識を持って立ち上がろうという意味を考えています。

 実行委員会の中でどんな話が聞きたいか、聞くとすれば誰に講演してもらうかを話し合いました。フードマイルという言葉がありますが、できれば中四国・九州の近場から講師を呼ぶ事を原則としました。

 一日目は分科会と言っています。以前は複数の会場でいろいろな講演を聞くことができたからですが、予算と運営の観点からこのところ1列となってしまっています。また、いつの日か本当の意味の分科会としたいものです。補聴器は口腔ケア、ロコモ、メタボなどに続いて認知症予防策の一つとして我々が世に広めて行かなくてはならないものです。アレルギー性鼻炎・花粉症は今や国民病ともいうべき疾患でありますし、エコーはすでに活用している先生方も少なくないとは思いますが、ほとんどの耳鼻咽喉科診療所が備えるべきものと思っております。また、われわれは耳鼻咽喉科・頭頸部外科医としてのトレーニングを受けています。このことを世に知らしめ、活躍の場を広げるべきであると思っています。

 二日目の全体集会では地域から小児難聴専門のクリニックを開業しておられる先生に言語聴覚士の雇用を含めて話していただきます。そして、前回の鹿児島フォーラムから始まった地元大学の主任教授による講演です。最後に今後は耳鼻咽喉科開業医も介護現場に出掛けることが増えると思いますがそこで問題になる人間の命についてお話をしていただきます。

 フォーラム初日に午前中にエクスカーションも企画しています。帰りには門司へ渡ってレトロタウンを巡ってから博多空港からという帰り方もあるかと思いますし、日本海側に回って萩・津和野を訪れるのも一興と思われます。秋と言うにはまだ早いですが、下関を満喫していただければ幸いです。

 フォーラムに参加されることで明日からの診療に役立つ何かを掴んで帰っていただければ開催する側としてこれ以上のことはありません。それでは下関市にてお待ちしております。